疼痛疾患に対する漢方薬の有用性(医師会雑誌に載ったコラム)

上村聡子 うえむらさとこ
平川奈緒美 ひらかわなおみ
佐賀大学医学部附属病院ペインクリニック・緩和ケア科

疼痛疾患に対する薬物は毎年のように新出し、治療効果は高くなっている。
しかし鎮痛薬が効かない症例も少なくない。先生方もご経験があるのではないだろうか。
そうなると私たちペインクリニシャンの出番になり、これも進化し続けている様々なブロックを行う。
これは大変効果的なことが多く、内服療法と併用して痛みのコントロールがつくことも多い。

ところがどんなに手を尽くしても痛みが緩和しない症例がある。
平田ら1)の症例報告で、帯状疱疹の痛みがある高齢男性に持続硬膜外ブロックを行い、鎮痛薬もあらゆるものを使ったが、眠ることも食べることも出来ずに寝た切りだったところ、非常に寒がることに注目して麻黄附子細辛湯を投与し、1回飲んだだけですやすやと眠れ、次の日には自ら立ち上がり歩行したというものがある。
疼痛疾患に対する漢方薬の効果は絶大だと感じた論文であった。
ここで注目すべきは、「冷え」という見方である。西洋薬は冷やす薬はあるが、温める薬は無いに等しい。
この方のように体の中から温めると痛みが軽くなることはしばしば起こる。しかも冷えがある方には経験上、鎮痛薬やブロックの効果が出にくい。また、同じ帯状疱疹でも様々な病態がある。
例えば触るだけで痛いというアロディニアという症状は、治療が困難である。これを漢方的に考えると脊髄後角から皮膚に至るまでの経路がウィルスによる炎症の熱で焼かれ、乾いてしまったために、神経がむき出しになり感覚が過敏になったのではないかと推察する。
そこに必要なのは潤い。
滋潤薬の登場である。麦門冬、五味子、地黄などの潤う作用の生薬を使用することで、この症状が緩和する2)。

近年スマホやパソコンの使用で患者数が増加している頚椎症では葛根製剤や桂枝茯苓丸などの駆お血剤の有効性が報告されている3)。
これらと抗ストレス剤ともいうべき柴胡剤を併用して強い痛みが消失した症例も多数ある。
頚椎症症状で鎮痛薬を長期間飲み続けている人は非常に多く、漢方薬と生活指導で鎮痛薬を減量したり、中止したりできるため非常に喜ばれる。

しかもこれらの効果が、眠気や吐き気や便秘などの強い鎮痛薬特有の副作用なしで期待できるため、高齢者にも、子供にも、運転や仕事をする世代にもみんなに投与できる利点がある。

漢方は、疾患の成り立ち、局所の病態から個人の体質や体調などあらゆる側面から方剤を考慮し、最も適したものを使用できるため、応用の範囲はどこまでも広く、様々な疼痛疾患に効果を示す。長く続いた腹痛が治った子供と虐待が疑われていたその母親のうれし泣き、ひどい寝違えがすぐに治って驚く同僚、生理痛が一服で消えた時のほっとした笑顔、漢方で誰かの痛み、苦しみを助ける場面は数多くある。

方剤を決定するには、ある程度の知識や経験、診察方法の取得などが必要であるが、痛みが緩和した時の患者の得難い笑顔を見るのは格別であり、勉強の甲斐があると感じている。
西洋薬やブロックと併せて是非使用してみるべき治療法である。

1)平田道彦.垣内好信.麻黄附子細辛湯が奏功した帯状疱疹後疼痛の1症例.痛みと漢方 2002 ; 12 : 48-50
2) 平田道彦.皮膚の異常知覚に対する漢方治療~補陰の役割~.漢方の臨床 2013 ; 60-7 : 1159-1163
3) 山上裕章.脊椎疾患に対する漢方治療. 2005 ; 26-6 : 767-774